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老人はこくりと頷く。
「よくご存知で。その情報網、恐れ入った。分かっていると思うけど、これはこの国では違法だからね。政府に見つかればどうなることか。……その覚悟を持ってきたということは、君にも生き返らせたい人間でもいるのかね?」
「はい。データは冷凍保存してあります」
私は頭の中で第32都市の映像にアクセスした。
それは大事に、研究所内の気温マイナス30℃の冷却室に保管されている。
「そうか。じゃあ合格だ。手伝ってもらおう」
面接はあっさりと終わった。
私は古びた老人の研究所を見渡す。どこもかしこもススや埃にまみれている。紙、万年筆、定規。初めて見るような、旧時代の産物が机の上に山のように置かれている。
なのに何故か、ここの空気感は第32都市の真っ白な研究所を思い起こさせた。
私は壁に掛けられた、紙製のカレンダーを見つけた。
机の上に、赤いペンが転がっている。私はそれを拾いキャップを取ると、上から一行目、左から五行目の日付を赤く囲む。
奥の部屋から珈琲を持ってきた老人が、不思議そうな目をして私を見つめている。
「……何してるんだい?」
「誕生日を記録しています。おそらく今年は間に合わないでしょうが、誕生日には、誕生日プレゼントが必要なので」
老人は首を傾げつつ、またニヤリと笑った。
「あんたみたいなアンドロイド、見たことないよ。アネモネ」
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