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原案(あらすじ)
目覚めるとそこは屋外階段の踊り場だった。
病院の外階段。
今日は風香の目の包帯を取る日だ。
啓吾は面会時間を待っているうちに寝ていたのだ。
一年前、父の見舞いに来ていた啓吾が風香と15年ぶりに再会したのもこの病院だった。受付の「神田風香さん」と呼ぶ声に啓吾が立ち止り、風香も懐かしい香りに振り返った。しかし目は合わなかった。風香は目が見えなかったからだ。
啓吾はお香の老舗の跡取りで現在は修行中。幼馴染の風香は中学に上がると同時に転校し、その後、病気で視力を失った。眼科で有名な病院があるこの町に、最近戻ってきた。
昔のように啓吾の家に出入りするようになった風香は、視覚以外の感覚に優れ、自分を信じる強さも持っていた。
啓吾が風香を人気レストランに連れて行くと、「おいしくない」と人目も気にせず言った。弟に整体師への道を開き、妹に音楽の才能がない事を指摘したりもした。
啓吾もまた、風香に教えられた。
新しいことに手を出すも失敗続きだった。その一環で啓吾が苦心して作った新しい香りを、風香はことごとくけなす。遠慮のない言葉に腹も立ったが、自分を見つめ直すきっかけになった。
啓吾は伝統的な香りを追求することにした。次第にクリエイターやバイヤーから声がかかるようになり、意図せず企画が持ち上がることも。焦りは消え、啓吾は仕事を楽しむようになっていた。
風香への思いが大きくなってきたある日、目の手術が決まった。
風香の目が治るのはうれしい反面、怖くもあった。
最近では風香の好意も感じていたが、見た目普通の自分をどう思うだろう。
でもすぐに思い直した。
風香は見た目で態度を変えたりなんかしない
いや、この際どうでもいいさ
自分は自分だ
そう思った自分に少し驚き、静かに息を吐き立ち上がると啓吾は病室へ向かった。
風香の為に作った香を持って。
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