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「そこで奇跡が!」田淵の大声に、周りの席の客が一瞬こちらを伺う。 瞬間、主人公は失った色を取り戻す。眼前には様々な色で彩られた世界が広がる。 ああ、こんなにも綺麗な世界に自分は生きているのだ。そして、生きていていいのだ。 そう理解した主人公の目からは自然と涙がこぼれ落ちる。 「ってことはハッピーエンドなんだな」したり顔の江島。ぱちぱちと手を叩いたのは葵だ。 「えー、それすっごい面白そう!」 僕はなんだか気恥ずかしくなって、しどろもどろになる。 「今となっては恥ずかしいぐらいにベタな内容だけどね」 「そんなことないよ。ていうか村ちんて以外とロマンチストなんだね」 「俺らも最初は驚いたよ。なんていうか最初に会ったときは、僕は本といえば純文学しか読みませんけどなにか。みたいな雰囲気だったのに、蓋を開けてみればファンタジックな話を書いてたからさ」 どうやら美香子と江島には、僕はお硬い人間に見えているようだ。
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