プロローグ

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小気味よく打鍵する音が部屋に響く。何もない部屋だ。飾り気のない黒のラグに、安物のベッドとローテーブルがあるだけ。 そこで僕は黙々とパソコンに向かいキーを叩いている。 『これでおしまい。私たちの物語はおしまいなのよ』 まるで舞台女優のように両手をめいっぱいに広げて、蓮見えみりが短くそう告げる。僕の頭の中にだけ響く、ひどく沈んだ声。この上ない絶望が聞き手の心にじんじんと伝わるような声。 言いようのない高揚感が僕の中にあった。もうすぐ書き上がるこの小説は、今までにない最高の出来になる予感がした。 『嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ』 『ううん、嘘なんかじゃない。私たちは最初からこうなる運命だったの。少しのブレもなく、こうなることが決まっていたの』 二人の物語はいよいよ佳境だ。僕は頭のなかに浮かぶ情景にお気に入りの歌を重ねる。 瞼を閉じれば、舞台もキャスティングも自由自在な、僕だけの映画が浮かび上がる。 エンドロールはもうすぐだ。
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