その1

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その1

「……という訳で、我が不知火家は先祖代々……」  厳かなんやろう拝殿(はいでん)内に、親父の言葉だけが響き渡る……と言えば、なんや大きな神社かと思われがちやけど、実際はそんな事もない。  歴史を感じさせる古めかしさから確かに神聖な雰囲気はあるけど、響き渡る程広くもないし、天井も高くない。  子供の頃から慣れ親しんでるせいで、そんな所で正座してても緊張感なんか微塵も感じへん。  だいたい朝の決まりとはいえ、子供の頃から毎日毎日同じ様な説法を聞かされ続けたら、流石にもー飽きた。  いや、とっくの昔に飽きている。 「こら、龍彦(たつひこ) !ちゃんと聞ーてるんか!?」  だから俺の態度に多少だらけた雰囲気が含まれていたとしても、それは仕方の無い事や。 「あー……ちゃんと聞ーてるよー……ってゆーか、毎朝毎朝、(おんな)じ事しか()わへんやん」 「あほっ! 大事な事やから、お前には何べんも言わなあかんのや」  俺のお決まり文句に、親父は「大事な事なので二回言いました」ならぬ「何度でも言います」を返してきた。  まー、それも仕方がないこっちゃ。  正直な話、この歳になってまで聞かされたくないわ。       
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