その1

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  母屋にある俺の部屋に戻りカバンを持って玄関から外に出ると、我が愛しき妹、神流が俺を待っていた。 「……もー……遅いやん」  少し待たせてもーたみたいで、神流はご機嫌斜めや。  まー実の兄がこー言うんもなんやけど、少し拗ねたような顔も神流には似合ってて可愛い。 「あー……(わり)い悪い……親父がしつこくてなー……」 「そんなもん、適当に聞き流しとけばえーねん。お兄ちゃんはほんまに要領悪いなー……」  俺の言い訳に、直ぐ様神流が言葉を被せてきた。  確かに要領よく“聞いたフリ”でもしとけば、長い説法に無駄な説教が追加される事はない。  俺はそれがどーにも下手で、神流はそれがひじょーに上手い。  何に対してでも、要領も愛想も良い所が親父のお気に入りな部分でもある。 「ほら、お兄ちゃん! もー行くで! 利伽(りか)姉ちゃんが待ってるし」  そんな事を考えとったら、呆けた顔にでもなってたんやろか。  神流が眉根を寄せたような怪訝な顔で、俺を下から覗き込んできた。  こーゆー仕草がナチュラルに出来るところも、神流の持つ魅力の一つなんやろなー……。  もっとも、誰がやっても似合うっちゅー訳やないんやろーけど。 「そやな。朝から小言言われるんは、親父だけで十分やな」  俺がニッと笑ってそう言うと、神流もそこは同意らしくニコッと笑ってクルッと俺に背を向けた。  中学に入学してから伸ばすようになった綺麗な黒髪は、神流の動きに会わせてフワッと舞って、朝の光を受けてキラキラと輝いていた。
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