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少し肌寒い冬の夜。
裕幸はバイト先のレンタルビデオ屋を出たところで、歩道の隅に佇む恋人のすがたを見つけた。
黒いコートを着た亮は、猫のようにぼんやりと虚空を見上げている。店の灯りに映し出された色のない横顔は寂しそうにも楽しそうにも見えた。
急いで駆け寄ると、足音に気づいた亮はこちらに顔を向けて、目元を緩めた。
「裕幸くん、お疲れさま」
「亮さん。遅くなってごめんなさい、家で待っててくれて良かったのに」
大通りに面したこの道は、車の通行が多い。夜中でもなお明るく、亮が眺めていた夜空には星一つ見えないが、退屈ではなかったのだろうか。寒空の下待っていた恋人は、いつもと変わらない穏やかな微笑みを浮かべている。
付き合い始めてから半年以上。知り合ってからはもう八年になるが、いまだに彼が何を考えているのかいまいちよく分からないときがある。
「僕あんまり料理、得意じゃないし。明日はお休みだから、たまには君と外へ出かけるのもいいかな、って思ったんだ」
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