SS09買い物(裕幸大学生冬

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 亮は普段、完全なるインドア派だし、買い物自体おそらく興味がない。もう帰ろう、と言われることは想定していたが、もっと続けたいと言われるとは思いもしなかった。  にこにこ微笑みかけてくれる亮は、ちょっと裕幸が不思議になるくらい機嫌がいい。そういえば、今日は出かけている間中、なんとなく楽しそうにしているような気はしていたけど、願望じゃなくて本当に楽しんでくれていたのだろうか。 「オレに服を買うの? なんで?」  浮きたつ気持ちを誤魔化すように、冷えたグラスを煽る。レモンの浮かぶ氷水はごくわずかに柑橘類香りがする程度で酸味はほぼなく、すっきりとして飲みやすかった。 「僕ね、君とこういう関係になる前に、君と服を買いに行けたら楽しいだろうな、って思ったことがあるんだ」 「そうなんですか?」 「うん。でも、その頃の僕たちは友達とすら言えるのか……ちょっと不思議な関係だったから。服をプレゼント出来るような間柄じゃなくて。だから、今こうして、何の気兼ねもなく、服を買ってあげられるのが、うれしい」  亮は椅子にゆったりと腰をかけて、目を細めてこちらを見つめている。保護者のようなこのあたたかな眼差しにイラつく日もあったけど、今はただただ照れ臭い。 「僕は今でも君に対する好意が、どんな種類のものなのか、自分でもいまいちよく分からないときがあるんだけど。あの頃から、君が悲しんでいるときには抱きしめてあげたかったし、君といっしょに暮らすのは楽しいだろうな、って思ってた。君と恋人同士みたいなことが出来たらいいのにな、とは思っていたんだ。おかしいね」  亮は特に気負うことなく、淡々と話しているが、ひょっとして今とんでもないことを言われたのではないだろうか。  止めようもなく頬が赤くなっていくのがわかる。
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