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顔を片手で覆ったら、運悪くそのタイミングで店員が料理を運んで来てしまった。
「お待たせしました。こちら季節のグリーンサラダです」
小洒落たレストランの一角で、男同士差し向かい合って妙な空気になっている。その上片方は赤面している。
あまり他人の視線が気にならない方だと自認している裕幸ですら、いくらなんでも気まずいし、恥ずかしい。
しかし繊細な見た目を裏切ってその実豪胆な亮は、平然と対応している。
「上にチーズをかけてもよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
店員は手慣れた仕草でチーズをサラダの上ですり下ろしてから立ち去った。平たいボウルに盛り付けられたサラダは、ナッツの類がたくさん乗っていて美味しそうだけど、量は少々物足りない。
気を取り直して、手早くふたり分のサラダを取り分けてから、手を合わせた。
「いただきます」
気恥ずかしい気持ちを押し殺して、彩り豊かなレタスをもしゃもしゃ食べる。香ばしいドレッシングがよく絡んでいて美味しい。
亮も無言でサラダを食べている。よく冷えた生野菜が口に合ったのか、ほんの少しうれしそうに頬を緩めるさまがかわいい。
「美味しいね」
目の前でしあわせそうに微笑む恋人があまりにも愛しくて、机の上に突っ伏しそうになった。
「…………今すぐ亮さんちに帰りたい」
俯いたまま思わずこぼれた本音に、亮は目を白黒させた。
「え? 何で急に……靴は買わないの?」
「買います! 買いますけど……!」
買い物は大好きだし、亮の服を買えるのも、亮に服を買ってもらえるのもうれしい。うれしいけど今はとにかくふたりきりになりたい。誰もいない落ち着ける場所で思う存分亮を抱きしめたい。
だけど、こんなに機嫌のよい亮と外でデートすることもそうあることではない。不思議そうに首をかしげる恋人にただ笑いかけ、胸に詰まるくらいの幸福を口に詰めたサラダといっしょに飲み込んだ。
<おわり>
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