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そして背板で隠されていた空間には、そこそこ体積のある、黒いビニール袋に包まれた謎の物体が残った。
「……どうしよう」
ここにきて、急に亮に迷いが生じた。
これまで好奇心と不信感に急かされるまま行動していたが、これは果たして自分が見つけても良いものだったのだろうか。
ここまで厳重に隠すものなんて、順当に考えて何らかの犯行に使われた凶器としか思えない。思えないが、確かこの部屋は、亮が入居する前に水回りをリフォームしていた気がする。リフォームしていたら、いくらなんでも業者が気づいたと思う。だから、多分、この黒いビニール袋に亮に心当たりがない以上、恐らく、きっと、裕幸が隠したものなのだ。
あんまり考えたくないけれど、これほど念入りに隠してあるのは、亮に見られたくないからに違いない。
「……どうしてこんなものを見つけちゃったんだろ……」
恋人である裕幸は、ちょっと裏表はあるかもしれないけど、やさしくて人当りの良い、善良な青年だ。何かの犯罪に巻き込まれた挙句に凶器をここに隠したりなんて、絶対にしない。
一瞬というよりは遥かに長い間、亮は見なかったことにしようかと悩んだ。彼の人間性には絶対の自信がある。付き合ってからはほぼ一年、知り合ってからならもう八年以上経つ。家族のことを思い悩み、苦しみつつもずっと全てのひとにやさしくあろうとした彼の一途さを、亮は知っている。……ただ、ほんのちょっと、裏表はあるかもしれないけど。
「………………」
やはり、彼のそのちょっと裏表があるところが気になったので、思い切って中身を確認することにした。隠し方があまりに巧妙すぎたのも、亮の不安を煽る一因ではあった。
もはや触れるのも怖かったが、恐る恐る黒いビニールを引っ張る。ガチャガチャと鳴り響く低い金属音に違わず異様に重くて、嫌が応にも恐怖が募る。
「ひっ!!」
そして中身を取り出して、さっそく後悔した。中身を見たことはおろか、珍しく醤油などを出して吞気に卵かけごはんを食べようとしたところから後悔した。
中にはちょっとした野生動物でも捕まえておくのかと思われるほどしっかりとした金属の鎖が数メートル分と、ダイヤル式の南京錠と、手錠が入ってた。しかもどれもこれもびっくりするほど本物だった。
「え? え? ……え?」
こんなものが出てくるとは全く思っていなかった亮は軽いパニックになった。いっそ血のりが付いた包丁とか、実弾が装填されたままの拳銃でも出てきた方がリアリティがない分、冷静でいられたかもしれない。
「……み、見なかったことに……」
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