SS10 「お守り」 (大学生編)

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「違う違う、そうじゃなくて。一旦冷静に考えてみてください。ここに亮さん監禁したところで、防音設備もない普通のアパートなんですよ。オレだって一介の学生で、四六時中亮さんを見張ることなんかできないし。壁バンバン叩いて助けてくださいって叫べば、隣のひとが警察くらい呼んでくれますよ」 「か、監禁……! やっぱりこれ、そのために使うものなんだね!?」  出来るだけおだやかに理路整然と話すよう意識したが、言葉のチョイスが悪かったようだ。些細な言葉尻に亮は激しく反応し、慄いた。  もちろん監禁するための道具だし、その対象は亮だ。他の可能性なんか一ミリもないのに、今さらそんなところで驚かないで欲しい。  理解を超える恋人のお人好しぶりに、動揺しつつも裕幸は努めて真顔を維持した。 「だから、こんなもので大の大人を監禁なんかできないって話をしているんです、オレは。亮さん、ちゃんとした社会人なんだから、無断欠勤してたら数日で職場の誰かが探しに来るだろ。ご家族にだって連絡行くだろうし。そしたらオレ、一発で捕まっちゃうよ」  以前松本からもらったとっておきの茶葉を急須に入れながら、裕幸は淡々と実現不可能である理由を述べ立てた。意識的に肩の力を抜いて、さも常識的な話をしているかのように見せかける。その一方で非常識極まりない監禁セットは、亮の視界に入らないように着ていたアウターで覆った。  涙ぐましい努力の甲斐あってか、亮も一応、裕幸の言い分に納得してくれたらしい。こわばっていた目元が緩み、いつものやさしい眼差しが戻ったことに、裕幸は微かに苛立ちを覚えた。 「そうだよね。まさか本気で使うつもりなんかあるはずないよね」  本人は無自覚だろうが、現実を受け入れたくない亮は、むしろ積極的に裕幸に騙されようとしている。  持前の察しのよさで気づいたものの、少なくとも今、裕幸にそのことを指摘するつもりはない。  そのときようやくやかんの湯が沸いた。急須に湯をゆっくりと回し入れ、蓋をする。熱い湯の入った急須とマグカップを二つ、ローテーブルに置いてから、裕幸も亮の斜め向かいに腰を下ろした。  少し茶葉を蒸らしてからカップにお茶を注いだ。途端に広がる緑茶の香りがかりそめの平和をもたらす。 「はい、亮さん」  白い湯気をあげるカップを差し出すと、亮は小さく礼を言って受け取ってくれた。 「じゃあこれ、何のために隠したの?」  熱いお茶を一口飲んで、改めて人心地ついた亮は首をかしげた。とりあえず警戒が解かれたことに安堵して、裕幸もようやく息をつく。  あれを隠した理由をことばで説明するのは難しい。特に亮には、理解してもらえるとは思えない。
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