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本当に監禁されることはないと理解していても、亮はひどく追い詰められたような顔になった。とっさに逃げ道を探すのは人として自然な反応だ。一瞬さまよった目線の先を辿るだけで、彼が何を考えたのかわかった。
「もちろん、ベランダにも届きませんよ」
「! ず、ずいぶん綿密に計画を立てたんだね」
咳払いをしてから座りなおした亮は、心なしかさっきよりちょっと距離が遠い。あくまで妄想というか、裕幸としては一つの純愛のつもりなので、あんまり怯えないで欲しい。
「怖がらないでください。マジでやりませんって。やらないからこそ、リアリティが大事なんじゃないですか」
「そ、そう。じゃあ、あの南京錠は何に使うつもりだったの?」
いつもよりだいぶ早口で尋ねた亮の頬に手を添える。触れた瞬間、びくり、と震えたが、振り払われるようなことはない。
少し冷たい白い肌はすべすべして気持ちがいい。出来ることならずっと触れていられたらいいのに。
「鎖を柱に巻いて、あの南京錠で固定するっていう設定です」
あくまでお遊びであることを強調しつつにこやかに答えれば、引きつった笑みを浮かべつつ亮も乗ってきてくれた。
「じゃあ、どうして普通の鍵じゃなくて、ダイヤル式なの? あれ見たときから不思議だったんだ。ダイヤル式だと総当たりすればいつか開くじゃない」
「それはわざとです。どうやったって逃げられない、って思うと、いくら浮世離れした亮さんでも絶望したり、病んだりしそうだから。逃げられる可能性を残しました」
「いくら浮世離れした……?」
なぜかそこで不満そうに唇を尖らせたのが可愛くて、身を乗り出して軽くキスをした。間近で微笑むと、亮は驚いたのか、呆れたのか、決めかねたような顔をしていた。その隙に、細い肩を腕で捕らえて、抱きしめる。やわらかいニットに包まれた身体は腕の中にすっぽり収まって抱き心地が良い。
こちらを見上げてくるきれいな瞳に、にこりと笑いかける。
「あのダイヤル錠、よく見ました? 暗証番号、五桁なんです」
「五桁」
「そう。四桁だと一万通りしかないですからね。数時間試し続ければ総当たり出来ます。だから五桁にしました。ゼロから九までの任意の数字を五桁組み合わせて作られる暗証番号は十万通り。丸一日試し続けても制覇出来ないでしょうね。毎日暗証番号変えれば、総当たりで開けるには途方もない根気と運が必要になります」
「…………」
「でも、これでもオレにとっては最大限の譲歩なんです。例え微かでも、逃げられる可能性を残すなんて。本当は鍵どころかいっそ鎖を溶接したいくらいですからね」
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