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自分で解説しながら興奮してきてしまった。そっと力を込めれば、腕の中の身体は容易くフローリングに横たわる。
そこまできて初めて、亮は自分が裕幸に押し倒されていることに気が付いた。流暢すぎる説明を理解するのにいっぱいいっぱいになっていたんだろう。
「え、あれ? 何か君、その気になってない? 今そんな気になる要素あった?」
「オレとしてはそんな気になる要素しかありませんでしたけど。良かったら、今から監禁ごっこしません?」
「嫌だよ!」
にわかに抵抗し始めた亮を、抑えつけたりはせずに素直に解放する。強要する気はないのだというアピールのつもりと、後はあわよくば合意の上で監禁プレイをさせてもらえないだろうかという一縷の祈りもあったことは否定しない。
「仕方ないな……」
亮の上から離れて、監禁セットを取りに行く。黒い袋にちゃんと全て納められていることを確認してから、もう一度棚の中に戻そうとしたら、慌てて亮が背中に張り付いてきた。
「そこに入れないで! 家に持って帰って!」
珍しく声を荒げる亮の言い分を聞いて、それはそれでどうなんだろう、と首をかしげる。
「別に持って帰ってもいいですけど、オレが持ってていいの? 自分で処分した方がいいとは思いませんか?」
「思うけど、人の物を勝手に捨てるのは……そもそも、どうやって捨てたらいいのかわからない」
「……………………」
この分だと、裕幸が持ち帰らなければ、部屋の隅に放っておかれるのかもしれない。上手く言いくるめれば、使うチャンスもゼロではなさそうだ。
「あ、そういえば亮さん、お腹減ってたんですよね? 今あるもので何か適当に作るんで、ちょっと待っててください」
「え……あ、うん」
あまりにもあからさまに話題を変えたが、亮は何度か瞬きをしてから、しぶしぶ頷いた、拘束具の行方は気がかりだが、これ以上つついて藪蛇になるのは避けたいのだろう。結果、ただただおろおろと視線をさまよわせている。
「お米が食べたかったんなら、チャーハンにでもしましょうか。テーブルの上のごはん、こっちに持ってきてもらってもいいですか?」
「わ、分かった」
後でまた元の場所に隠しておこう。目にさえ入らなければ、亮はきっといつもの逃避で忘れたふりをしてくれるはずだ。
ご機嫌で冷蔵庫を開いて、中身を物色し始めた裕幸は知らない。
翌月、亮が一人暮らしを初めて約一年を経て、ようやく不燃ごみの日を覚えるということを。
―おわり―
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