503人が本棚に入れています
本棚に追加
「でも珍しいね。裕幸くん、猫舌なのに」
「だって、外寒かったから」
読みかけの本をかばんにしまいながら、さらりと返された裕幸の言葉の意味を一瞬考える。
……一時間も室内で読書していた裕幸に、外の寒さは関係ないのではないだろうか。
「?」
やや引っかかったが、あえて問うほどのことでもないかと、気にしないことにした。
それより、裕幸が読んでいた文庫本が気になって、水を向けると今さっきしまったばかりのそれを取り出して見せてくれる。
「直木賞受賞作らしいから、一応読んでみてるんだけど…」
差し出してくるので受け取ろうとすると、伸ばしたその手をつかまれた。
「やっぱり亮さん、冷え切ってる。外、すっごく寒かったんじゃない?」
「そうだね。でも、僕は寒いのは割と平気なんだ。」
本のタイトルに目を走らせながら、曖昧ににごした裕幸の意図を理解した。この小説は少々感傷的な表現が多く、裕幸の好みではないのだろう。
けれど、最後まで読みきらずに否定的な意見を言うことに抵抗がある気持ちは、同じ読書好きとして亮にもよく分かった。
「おまたせしま、し………」
そのとき、ウェイトレスが注文をとりに来た。
最初のコメントを投稿しよう!