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「はい。海老グラタンふたつお願いします」
顔を上げて注文する。それは、先にテーブルまで案内してくれたのと同じ少女だった。
しかし、分かりやすくページまで開いているのに、少女は微動だにせず呆然としている。
「えっと、海老グラタン、ふたつ」
聞こえなかったのかと、もう少しはっきりと発音するように心がけると、少女はようやっと動き始めた。
「あ……はい、海老グラタンふたつですね。少々お時間がかかりますが、よろしいですか?」
「オレは平気!」
亮が目を向けると、裕幸は笑顔で即答する。
「大丈夫です」
「かしこまりました……」
立ち去り際、なぜか少女はいわくありげにこちらを一瞥していった。物言いたげなそのまなざしに、亮は首をかしげる。
「あの子、どうしたのかな?」
「さぁ」
裕幸は気のない様子で、こちらの両手で弄り倒している。手の平で包み込んだりさすってみたりと、特に困ることもないのでしたいようにさせていると、その内ようやく満足したのか、手を離してくれた。
「はい、ちょっとは温まったかな」
「わざわざありがとう」
可愛らしい心遣いに、笑いを堪えて礼を言う。
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