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「ちょっと……。自分が浮世離れしているのを棚に上げてそんな言い方……ずるいわよ」
亮の反論はごく真っ当な言い分のはずだ。それなのに、松本に非難がましい目を向けられると、亮の方こそ無神経なことを言ってしまったみたいな気分になった。
「僕って浮世離れしているんですか?」
「これ! これ! これほしい!」
亮が口を開くのとほぼ同時に、カートの椅子に納まっていた少年が大きな声をあげた。ちいさな指が指し示すのは、こどもの好きそうな何とかレンジャーの商品だ。
「前買ったのが残っているから、だめ」
「ほしい欲しい! ほしいぉぉ!」
「今ある分がなくなったらね」
少年は腕を精一杯伸ばして、極彩色のパッケージに手を伸ばしているが、届かない。ぽよぽよの眉は哀しそうに下がっている。
「じゃあ、また明日」
黒目がちな目から今にも涙が溢れてしまうのではないかとハラハラしている間に、松本はカートを押してその場を離れた。
亮の疑問に答えてもらっていないことに気づいたのは、その姿が視界から消えるまで見送った後だった。
***
浮世離れしている。
そのことばに、全く心当たりがないわけではない。
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