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昔から何度かその手のことは言われたことはある。何よりも薄々感じていたのだが、自分だけいつもみんなに遠慮されている気がする。それはひょっとして、松本が言った、浮世離れしている、ということが原因だったりするのだろうか。
亮は今年で社会人三年目になる。二十五年も生きてきてそのことに全然気付かなかったし、心情的には今でも信じたくない。受け入れがたく、ぐるぐるしながら寒空の中歩いていたら、いつの間にか自宅のアパートの前についていた。
軽く息を吐いてから、扉の前に立つ。
今日は裕幸が来て、夕飯を作ってくれているらしい。鍵は取り出さずに、チャイムを押すと、いくらも待たずにドアが開いた。
「おかえりなさい! 外、寒かった?」
玄関にはいつものエプロンを身につけた裕幸が、満面の笑みを浮かべて立っていた。暖気と美味しそうな匂いに包まれて、こわばっていた身体から力抜けていく。
「ただいま、裕幸くん」
仕事終わり、疲れて帰宅したときに、家が明るくあたたかいのは理屈抜きでうれしい。その上、出来立ての手料理まで食べられる。
もともとは裕幸のためにひとり暮らしをすることに決めたはずが、いざ生活を始めてみると、亮が支えてもらうことの方が多かった。彼の好意を利用しているような気がして後ろめたいけど、助かっているのは事実だ。
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