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「さっきスーパーで、たまたま松本さんに会ったんだけど、その……僕、浮世離れしてるって言われて」
「あー、」
ちょっと期待して返事を待ったが、彼は目を泳がせるだけで、否定してくれない。それでもがんばって見つめていたら、何をどう判断したのか、腕を伸ばして亮のコートのボタンを外し始めた。
「何でそんな話になったんですか?」
脱がせたコートをハンガーに掛け、流れるように背を押して洗面所へ連れて行く。亮の無言の催促に気づいていないはずはないのに、浮世離れしている、ということばに対してはコメントしてくれない。
亮は諦めて、手を洗うことにした。帰宅したら、最初に手を洗うのは、祖母に躾けられた幼い頃からの習慣だ。
「何か……僕がスーパーにいるのがすごく違和感? あったみたいで。お化け屋敷でお化けみるより驚いた、って」
「あぁ」
蛇口を閉め、タオルで軽く拭いてから振り返る。壁に軽くもたれて立つ裕幸は、目を閉じて深く頷いていた。
「何で納得しているの?」
恋人が自分の肩をもってくれないのは、面白くない。恨みがましい視線を向けると、ふいにどこかでアラームがなった。裕幸は無言で背を向けて、洗面所を出ていってしまった。
見送ったまま呆然としていると、台所から声がする。
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