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無言で落ち込んでいると、背後から近づいてきた裕幸がやさしく背を撫でてくれた。
「分かってます」
「いや、ほんとに。僕ニラとネギの違いくらい分かるし。今日はたまたま……何か、そういう日だったみたいで」
「大丈夫です、分かっています。松本さんに会って、びっくりしたんですよね」
理由にもならないことを弁明する亮に、裕幸は慈愛溢れるあいづちを打つ。知り合ったころから数えると、八年にわたる付き合いだ。こういうときの対応はある意味家族より手練だった。
「そう。それで、魚肉ソーセージは、その、松本さんのお子さんが欲しそうにしてて、そしたらいつの間にか、カゴに勝手に入っていたみたいで」
支離滅裂な言い訳も、裕幸には理解出来るものらしい。
「あぁ、それで……」
納得顔を見せたので、逆に今までこのソーセージは彼の中でどう解釈されていたのか、ふと疑問に思った。
「何だと思ったの?」
「……さすがに出会ったころにはもう十才でしたし、それはないだろうと思いましたけど。万が一オレが喜ぶと思って、とか言い出したらこの後抱き潰してやろうとは思ってましたたよ」
物騒なセリフを口にした青年は、とてもそうとは思えない、好感度抜群のさわやかな顔で笑っているから余計に怖い。
「ひょっとしてずっと怒ってた……?」
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