Act.1 幸せにかかる暗雲

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「そうだ。颯真、今月の分ね」 「あ、もうそんな時期」  食べ終えた勢いのまま片付けまで済ませて、さぁやっとイチャイチャするかと司に手を伸ばそうとしたタイミングで、司が鞄を探って銀行の封筒を引っ張り出してくる。  結婚指輪が欲しくて司に黙ってバイトの掛け持ちをしていた時に、お金が足りなくて掛け持ちをしていると勘違いした司から「そういうの、ちゃんとしたい」と言われて、ようやく真面目に二人で暮らす未来を考えるようになった。  家賃を司が払うのはおかしいし、水光熱費もどう割ればいいのやら思い付かず、結局は毎月決まった額を司からもらって、新しく作った銀行口座に「未来預金」として貯めることにした。ひとまずは同棲に必要な額を貯めることにしている。  ありがと、と丁重に封筒を受け取って未来預金の通帳に挟んだら、今度こそ、と司の隣に座り直して手を伸ばす。  意図に気付いた司が、やれやれ、と呆れて笑いながら。だけど満更でもなさそうな唇が、そっと触れた先で優しくオレを受け止めてくれて。 「……ん」  零れる吐息にも拒む色はなく、するりと服の上を滑らせた指先も甘んじて受け入れられる。 「どしたの?」 「……ん?」 「今日は先にシャワーとか言わないんだね」 「っ、ウルサイナ」  いつもなら、シャワーが先だとか、電気は消してだとか。まるでハジメテのオンナノコみたいにうぶで可愛い反応をするくせに、今日はいつになく乗り気だ。  どうしたの? と指を滑らせながら聞いて、返事を聞く前に首筋をぺろりと舐める。 「ンッ……べつに……」  思わず零れたらしい艶めいた吐息に煽られながら、だけど何かを隠して閉じ込める声音に気付いた。 「…………司?」  なんかあったの? と聞いても、ううん、といつも通りの声で取り繕って、潤んだ目を瞼の下に隠してしまう。 「なんもないよ」  だから、と伸ばされた手が背中に回って、誤魔化す唇に唇を啄まれる。  なし崩しだと分かっているのに、昂りを抑えきれなくて。 (後でちゃんと聞こう……)  心に誓って、優しい口づけを遮るように舌を捩じ込んだ。  *****
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