Act.1 幸せにかかる暗雲

6/6
前へ
/46ページ
次へ
 むぎゅ、とオレにしがみついたまま眠ってしまった司の頭をそっと撫でながら、覚えのある感覚に溜め息を一つ吐く。  あれは春の連休のことだ。忘れもしないし、忘れるはずもない。オレとの関係を不安に思って悩んでいた司が、今と同じような顔で眠っていた。 (どうしたんだろ……)  指輪を交わして将来を誓って、花火の下で章悟へのやりきれなさも昇華したはずなのに、今度はまた一体どうしたというのだろうか。それとも、気づかない内に不安にさせるようなことでも言ったのだろうかと、あの頃から成長していない悩みに溜め息をもう一つ。  滑らかな毛先を弄びながら、しかめ面の寝顔を見つめる。 (……言えなかったな……)  そろそろ一緒に住まないかと、持ちかけたかった言葉でさえも伝えるタイミングを計りかねて胸の(なか)だ。  もちろん、未来預金の件もある。金額としてはまだまだ目標額に届かないが、毎週末泊まりがけで会っている今の状況で、司の家族に余計な心配をさせてはいないだろうかとずっと気にしていたのだ。オンナノコじゃあるまいしとは思うものの、司が家族にどう説明して毎週末家を空けているのかは以前から気にしている。  必要なら家族に挨拶をするつもりでいるし、とはいえそうなると指輪をしていることも相まって、とんでもないオオゴトに発展しそうな予感もするからやっかいで。 (どうしたもんかなぁ……)  一人で考えたところで結論など出るはずもない疑問をぐるぐると考えながら、止められない溜め息に埋もれるしかなかった。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加