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やりきれなさを颯真に相談できないままで1週間が過ぎた。先週会った時には、こちらを窺うような颯真の視線をたびたび感じたものの、どう言っても颯真を悩ませたり傷つけたりするような気がして、結局なんでもない振りをし通した。
今日は普通に過ごさなきゃ、と言い聞かせながら迎えた金曜日の朝。いつものように颯真の家を訪れるつもりで準備をしていたら、ちょっといい、と固い声が部屋の外から聞こえて、こちらもギクリと体が強張る。
小さな頃、唯との仲はどちらかと言えば良かったと思う。お姉ちゃんお姉ちゃんとまとわりついた記憶もあるし、喧嘩の後に気まずい顔を付き合わせて、それでも仲直りのおやつを分けあった記憶だってある。それが章悟の事故の後にぎくしゃくして、最近ようやく元のように笑い合えるようになっていたのに。
屈託なく笑い合える日はもう二度と来ないのかもしれないと、自嘲の笑みを噛んだ。
なに、と固い声を返せば、そっと部屋に入ってきた唯がこちらの顔を睨み付けながら口を開いて。
「日曜日。絶対に家にいないで」
「…………分かってる」
「絶対よ」
「っ、分かってるよ!」
ちゃんと納得していたはずなのに念を押されてムッとしながら睨み返した先で、唯がほんの少し顔を強張らせる。たぶん、後ろめたさと後悔が入り交じっているのだろうその顔を見たら、すっと気持ちが落ち着いた。たぶん、唯だってきっと、本当はこんなことを言いたくないのだろう。けれど言わずにはいられないほどに不安で、それほど相手の人を失いたくないのだろうと思う。
「……でもさ、姉ちゃん」
そうと分かっていたけれど口を開いたのはたぶん、このまま黙っていることは颯真を貶めることになるような気がしたせいだ。
オレのことをなんと言われたって構わないけれど、颯真を悪く思ってほしくない。
「……何よ」
「……オレはホントに。…………ホントに、悪いことは何もしてないよ。……オレは、姉ちゃんに、ちゃんと幸せになってもらいたい」
「……」
「…………あの頃、姉ちゃんやお母さん達を拒絶してるつもりなんてなかった。だから、そう思わせてたんだったら、ごめん。……だけど、オレがアイツを好きになって、みんなに迷惑かけるとしても……譲れないよ、これだけは。……姉ちゃんの結婚にオレが邪魔なら、オレは家を出てく。相手の人にも、絶対会わない。みんなには、迷惑かけないようにするから」
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