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だからアイツとは絶対に別れないし、指輪も外さない。
左手の指輪に触れながら、そっと──だけど持てる力と想いの全てを込めて呟いた声を、ゆるゆると首を振って聞く唯は、何を思っているのだろうか。
何も言わずに黙ったまま俯いている唯に、そろそろ出掛けるからと、言おうとした時だ。
「……ぁたしだって」
「……?」
「わかってるわよ、司が悪くないことくらい……。……あたしだって司のことは大切だし、大事なのよ」
「姉ちゃん……」
「……あんな風に言われて……ただただ自分達が優位に立ちたいがためだけに、司のことを貶めるみたいに言われて腹も立ったし、言い返せなかった自分は、ホントは大っ嫌いなの。…………だけど、ねぇ……あんな酷い気持ちも初めてだったのよ。……あんな……。……貶められるってこういうことなの? って、初めて知った。……恐かったわ、凄く。みんなのあの顔。……みんなすごく下品に嗤ってて、どう考えたってみんなの方が悪役じみた顔してたのに、自分の方が悪いみたいに錯覚したわ」
きゅっと唇を噛んだ唯が、だから、と涙をにじませて続ける。
「一弥に同じ事をされたら、あたしもう二度と立ち直れないと思った。だから会って欲しくないの。もしも司の恋人の話なんかになって、もしも相手が男だってバレたりしたら、また貶められるかもしれない。嗤われるかもしれない。…………司を紹介したくない訳じゃないわ。ホントよ」
「分かってるよ」
「…………恐いのよ、あたし。……一弥に、……嫌われたくない」
ポロリと唯の目尻から流れた涙から、そっと目を背ける。思えば、こんな風に弱々しく泣く姿を見るなんて、初めてのことだ。
「──大丈夫だから。……ちゃんと分かってる。端から見たらオレの方がおかしいってことも、ちゃんと分かってるよ」
「司……」
「だけど、姉ちゃんと同じだよ。……オレも、アイツとずっと一緒に生きていきたいだけなんだ。……誰が何言ったって、それだけは譲れない。……だから、ごめんなさい」
嫌な思いさせてごめん、と頭を下げたら、驚いて戸惑う唯に笑いかけた。
「姉ちゃんが幸せになるの、邪魔したりしない。絶対」
司、とオロオロした声で名前を呼んだ唯に、にこりと笑い返した。
「だから、安心して」
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