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「そんなことないわ。だって唯の弟さん、目元が唯にそっくりだし、羨ましいくらいに華奢だもん。間違ったりしないわよ」
あんなに可愛い子、と。
くすりと笑う唇の醜いことといったら。
そんなものにつられて自分まで堕ちる必要はない。第一、司が誰と手を繋いでいようが本人の好きにすればいい。あの子は苦しみを乗り越えて、最近ようやく前と変わらぬ顔で笑えるようになったばかりなのだから、と言い聞かせたのに。
「あら、なぁにそれ? それって、今話題のLGなんとかってこと?」
やだぁ、大変ねぇ、と嗤う声が耳にうるさく追い討ちをかけてくる。
ぎり、と唇を噛んで、幸せな報告をするはずだった場所で羞恥に耐えるしかない。
どうしてこんなことに──。
テーブルの下、震える指先で幸せの証に触れる。
嘲笑の中で体を固くしながら、これを贈ってくれた人を思い描く。このことを知ったら、どう思うのだろうか。ここにいる醜い女達と同じように嘲笑うのだろうか。まさか、これを返せだなんて──
「ちょっと。いい加減にしなよ」
「…………海……」
「唯の弟さんがどうだろうと、今は関係ないでしょ。大体、手を繋いでたからってなんだって言うの」
バカバカしい、と呆れた声を紡ぐ海乃にすがる目を向ける。
「あんたも。弟がバカにされてるんだから怒っていいのよ」
「バカにした訳じゃないわよ。事実を言っただけだもの」
潔い声を打ち消す毒にじわじわと侵されながら、凛とした海乃の目を見つめ返すことも出来ずに。
「相手の人、そういうのに理解があるといいわね」
勝ち誇ったように紡がれた声と歪んだ唇を、虚ろに睨み返すのがやっとだった。
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