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「ちょっといい」
固い声に聞かれて振り返ったら思い詰めた顔をした唯が立っていて、迷いもせずに頷いた。
「どしたの?」
こっち、と促されて、まるで何かから隠れるように久しぶりに唯の部屋に入る。昔と違ってカーテンも掛け変えられて、全体的にシックにまとめられた部屋の中で、自分が呼んだくせに黙り込んで俯く唯を前に所在なくポツンと立ち尽くしていたら。
ようやく顔を上げた唯の顔が、どこかやつれているように見えてギクリとした。
「どうしたの?」
恐る恐る聞いた声を、ぶったぎるかのように
「あんた、男の子と手を繋いで歩いてたって、本当?」
放たれた声は、何もかもを否定して切り捨てるようなとりつく島のない音をしていて。
「な、に……?」
「……本当なの?」
追い詰める声に体を押された気がして、ふらついた背中が壁に触れる。そのまま何も返せずにいれば、イライラと髪を掻き上げる唯の左手に指輪を見つけた。
「……結婚、……」
「ぇ?」
「姉ちゃん、……結婚するの?」
「あぁ、これ?」
気付いたんだ? と薄く笑った唯が、そうよ、とまるで幸せそうに聞こえない声で頷く。
「……あんたも、指輪。してるでしょ」
「……」
じろりとこっちを見つめる目に射竦められながら、オロオロと視線を外せば。
「あんた、ホモなの?」
「なっ……」
遠慮のない声に抉られて、返す言葉も見つけられずに唯を見つめることしか出来ない。そんなオレの態度に眉を吊り上げた唯が、心底嫌そうな顔と声でこちらへ歩み寄ってくる。
「やだ、ホントにそうなの? 嘘でしょ気持ち悪い」
「っ……」
「ねぇ……嘘だって言ってよ」
ねぇ、と迫ってくる唯の細い腕を避けようとしたのに、もう背後には逃げ場がなくて。モタモタしている間にぎゅっと二の腕を掴まれて、離せ、と抗うしかなかった。
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