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「…………アイツは、オレを助けてくれたんだ」
「……なに……?」
「……アイツだけだった。……オレを助けてくれたのは」
そっと呟いた言葉を目を見開いて聞いていた唯が──哄笑する。
「……な、に笑って……」
狂気じみたその笑い声が恐くて呟いたら、ばん、と肩を押されて強かに壁に打ち付けた。
「ぃっ……」
「あんたじゃない! ……あんたが、あの時……っ、誰が何言ってもヘラヘラ笑って……! あたし達のこと拒絶したのは、あんたじゃないの!!」
「そんなこと……っ」
してない、と慌てて首を横に振ったのに、いつの間にか泣いていた唯は、歪んだ顔を晒したままで声を荒げてぶちまける。
「してたわよ! 誰が何言ったって泣きもしないで、ヘラヘラヘラヘラ笑ってたじゃない!! あたし達がどれだけ心配したって、どれだけ手を貸そうとしたって、あんたは受け入れようとしなかった!!」
「……っちが」
「違わないわよ!! あの時あたし達の助けを拒んだくせに、アイツだけが助けてくれただなんてよく言えたわね!? お母さんやお父さんだって、どれだけ心配してたと思ってるのよ!?」
はぁ、と肩で息を吐く唯の目からは、途切れることなく涙が流れていて。
申し訳なさと、だけどあの時は本当に誰にも何もして欲しくなかったんだという心の叫びが入り乱れて息苦しくなる。
浅い呼吸を何度も繰り返しながら言い返す言葉を探してみても、どう伝えれば真意が伝わるのかが分からなくて声にならない。
ぐっと奥歯を噛んで理不尽に殴られた心を押さえつけたら、震える声を絞り出した。
「──悪いことはしてない」
「っ、まだ!」
そんなこと、と震えた声が呟いて振り上げられた手を、無意識に体が避ける。
「してないから……!」
「っ、待ちなさい!!」
追いかけてくる声は無視して準備の終わっていた鞄をひっ掴んだら、後は振り返らずに家を飛び出す。
颯真の顔が見たいような見たくないような、声が聞きたいような聞きたくないような──複雑に揺れる胸を抱えたまま、結局は連絡を取ることなくとぼとぼと歩いて大学に向かった。
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