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~5ヶ月後・2月 現在~
「…で、あれからどうなんだよ?」
「え?何が?」
「橘未空。お前好きなんだろ?」
いつものように、父親が営む洋食レストラン店のカウンターの中で皿洗いの手伝いをしながら、雅臣はテーブルを挟んで客席側のカウンターの椅子に腰かけている友也と話をしていた。
昼食時のラッシュが過ぎ、夕食時のラッシュが始まる前のすいてる店内で下校後のんびり話し込む二人の光景は日課のことになっている。
雅臣の父親も夕食時のラッシュ前の仕込みや準備でお客さんが来ない限りずっと裏に引っこんでいるため、あまり口うるさく言うこともなかった。
「なっ!?何だよ急に…。そりゃ橘さんは可愛いし?好きかって言われれば、好きだけど…。それだけで…。別に…なにもないよ…。」
突然の友也の質問に、動揺しながらも雅臣は素直に自分の気持ちを答える。
それでも、友也の質問の返事をしながら最後の方は少し気を落としてしまった。
修学旅行のあの時から未空が気になり始め、修学旅行中も帰ってからも見かける度に自然と姿を追ってしまっていた。
顔を会わせると挨拶やちょっとした世間話くらいはするけど、どこか自信がなくてそれ以上踏み込むことが出来なかった。
連絡先を聞くなんてもっての他だ。
「…普段あんなに積極的で明るいのに、なんで好きな女の子の前では大人しくなっちゃうんだよ。お前。
いつものように明るいノリで連絡先くらいパッと聞いちゃえばいいのに。」
「う…。そうだけど…。橘さんは、なんか違うんだよ。そんな軽いノリでいけないというか…。なんか失礼なような気がして…。」
友也の言う通り、雅臣の普段は常に元気で明るい性格で、友達として連絡先を聞くのに苦がなくわりとノリで教えあったり出来るのだ。
実際、自分のスマホのアドレス帳には結構友達の名前は入っている方だと思う。
だけど、未空を前にするとどうしても消極的になってしまうのだ。
「…俺たち、もうすぐ高3だよ?このまま何もなく卒業になってもいいのか?後で後悔しても俺にあたるなよ。迷惑だから。」
「…わかってるよ。」
友也の毒舌は毎度のことで、それが心配してくれている裏返しだってことも雅臣は知っていた。
けど…。さすがに、今の言葉はいつも以上に胸に突き刺さった気がした。自分の情けなさに友也への反論の言葉も見つからず口を閉ざしてしまった。
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