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ある時突然上るよう促された螺旋階段は、左右途切れ途切れにまったく柵のない部分があってヒヤッとした。前を行く人はその壁のせいで、見えたり見えなかったりした。屋外で屋根などない。明るくまぶしい空間だった。
二段飛ばしで強引に上る人もいれば、なかなか一歩を踏み出さない人がいて、半笑いでお先にと言って通り過ぎる人もいれば、背中をさすって励ましてお付き合いする人もいた。一人では通れない箇所は誰かと手を繋いだが、いろいろな人がいた。一歩が大き過ぎる人。常に左右に壁がない場所で止まりたがる人。なかなか進んでくれない人。ずっと一緒に進む約束をしても、途中で手が離れるペアもいたし、荷物を背負わされて辛い思いをする人もいた。人生によく似た螺旋階段だった。
自分が思い描いた進路だけが待ち受けているのであれば良いが、理想はこんな風じゃなかったのにとか、やり直したいのにと思う時、踊り場に立つよう導かれた。そこでは自分が階段を上っている姿を映像で繰り返し見られる。階段を上る自分からの目線と、螺旋階段の外からの目線の映像だ 。外から切れ切れに見える自分の姿を見たら、思いのほかずっと素敵に見えて、何の問題があったんだっけと思い直して階段に戻る人は大勢いた。踊り場に目を背けて全力で前に行く人もいた。
自分の事だけに集中できるとは限らなかった。たまたま近くに居る人の姿がうらやましく見えた時、いいなと思った時、階段は大きく揺れた。妬ましくさえ思えたり、自分の道が悪い様に見えてしまった時、階段は一層激震し、隙間から人は落ちた。
目覚めるとそこは屋外階段の踊り場だった。あれ?私何で落ちたんだっけ。
写真家の紅恵がミュージシャンの藍沢の写真を撮って親密になったことで、近所のママ友達(もも子・みどり)はお互いのことをうらやましく思う気持ちを抑えきれなくなった。
普通に幸せだったはずなのに、無い物ねだりが道を誤らせる。揺らす。自分は揺れていないつもりなのに、人が揺らした反動で揺らされる。『世間って狭いよね』なんて言うけど、本当にその通り。身近な人の動きで、思いがけず自分にも影響が出たりする。
4人はまた自分の中で気持ちの折り合いをつけ、進む道の均衡を保てる日は来るのだろうか。
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