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助手席側のドアが開かれ、あっという間に縁に抱き抱えられる。
「やだ!縁っ...!」
「ごめん、今日はちゃんと話したい。このままじゃ、何も伝えられないまま湊をまた失うから」
バタバタ暴れる私をものともせず、片手でドアを閉めると足早に歩き出す。
「縁!縁!!」
「オレの話を聞いて。それでも湊が帰りたいって言ったら...その時はちゃんと送ってく」
「嫌だよ!なんで勝手に決めちゃうの?」
ボロボロと溢れ出る涙は、なんの涙なのか。
悲痛そうに顔を歪めながらも、縁は歩みを止めることなく遂にあの部屋に到着してしまう。
ガチャリと音を立てる鍵が、いやに耳に響く。
心臓は今までにないくらい早く鼓動を刻んでいて、身体中の血が沸騰するのじゃないかと思えた。
縁は私を抱きかかえたまま器用に靴を脱がせる。
童話の中のお姫様がされるように、丁寧に私を扱う縁がどうしようもなく怖かった。
何も嫌な事なんてされてない。
怖い事なんてあるはずないというのに。
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