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橘の告白?から逃げるように店を飛び出した私は、これは悪い夢だと何度も言い聞かせた。
実際次の出勤日に顔を合わせた橘は、拍子抜けするくらい以前と変わりなく、ドギマギしていた私が馬鹿みたいだった。
「おい、外回り行くぞ」
「は、はい」
あれはやっぱりお酒が見せた幻だったのだと思っても、あの夜のいつになく真剣な橘の表情が頭から離れてくれない。
平然と仕事をこなす橘に対して、1人であたふたしている私はさぞ滑稽だろう。
いつものように助手席に乗り込み、訪問先の資料に目を通す。
特に通常と変わらない現状確認だけで、何か問題があるような得意先もないようだ。
仕事だけでも平穏に終えたい私は、ほっと胸をなでおろした。
「最近会ってるのか?」
「んー?」
「アイツと」
真っ直ぐに前を見据えながら、何でもない風に話しかけてくるから油断していた。
いきなりの爆弾に、やっと落ち着きを取り戻していた心が騒ぎ出す。
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