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橘の言葉はよく分からなくて、私は頭を悩ませる一方だった。
そうこうしている内に得意先に着いてしまったので、話も途中のまま立ち消えてしまった。
もう一件寄るところがあるという橘と現地解散して、一人地下鉄に乗り込んだ。
何となくそのまま帰宅する気にもなれなくて、私は1人でバーに立ち寄った。
モヤモヤと胸の中が気持ち悪い。
あんなに無駄な事を嫌う橘が、無意味にあの話をしたとは思えなかった。
「からかいたいだけなら他を当たって欲しいわ...」
消えそうな独り言を、ハイボールで流し込む。
誰から見ても今の私は痛い女に見えるだろう。
無表情で考えの読めない橘相手では、私の推理なんて意味をなさない。
今まで1度だって、橘の思考を読めたことなんてないんだから。
「マスター、チェックして」
店に入り何時間経っていただろう。
ブツブツと独り言を続けながらハイボールを煽る私のすぐ横からいきなり長い腕が伸びた。
「.....縁」
「はい、立つ。早く」
「え、はい?」
状況が飲み込めないまま、私はグイッと腕を掴まれ立ち上がる。
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