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「帰る...帰らせて」
「湊」
震える自分の肩を抱いて、私は助手席で固まった。
行きたくない。あの部屋には醜い私が今もきっと居る。
あの日と違うのは、縁が少しも酔っていない事。
そして私に...後ろめたさしかない事だ。
「湊、お願いだから。大丈夫だから」
大丈夫って何が?
今更ここで私に何の話があるって言うのだ。
縁の手を振り払おうとして、私は思い止まる。
かがみ込むように私の肩を掴む縁の手も、少し震えているように思えたからだ。
「あの朝...湊が居なくて、死ぬほど後悔した」
「だから言ったじゃない...後悔するのは縁だって」
「うん、その通りだったよ」
分かっていたことなのに、改めて縁の口から告げられる残酷な言葉に、私はまた身勝手に傷つく。
自分が望んだことなのに、縁のせいにしようとしている。
そうじゃない、縁は悪くないって言いたいのに…!
「オレは大事な事を間違えた。湊が消えてしまって、ようやく気がついた」
「.....」
何も言えないで俯く私を置いて、縁は車を降りてしまった。
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