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「まだ帰ったりしないで」
念を押すように震える声で囁くと、ゆっくりソファに私を預けた。
もうここまで来てしまったら、今更ジタバタしても仕方ない。
私は覚悟を決めて大人しくされるがままになっていた。
「気分はどう?酔ってる?」
「全く...すっかり覚めた」
「そっか」
ふらついていた足も今はどうかわからない。
自分の足で立っていないから。
だけどこの部屋に入って、震えは止まらないものの頭だけは妙に冷静になっている私がいた。
「水持ってくる」
「ん...」
逃げないとわかったのか、縁は少しホッとした様子を見せた。
「ありがと」
「うん...」
今まで毛穴という毛穴から血が吹き出すのではないかと思うほど脈打っていた心臓が、ひと口水を口にしただけで大分治まった。
「強引なことしてごめん...。こうでもしなきゃ湊とちゃんと話せないって…焦ってた」
「そんなに私と何を話したかったっていうの?」
震える声をなんとか抑えながら、極力いつも通りの口調で話そうと試みる。
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