_終:

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「この世界は確かに、貪欲過ぎるね。悪魔にでもならなきゃ、とても謳歌はできないくらいに」  悪魔と相方の故郷に比べて、安全さも便利さも、人間界の発展ぶりは凄まじかった。  それでもまだ、ここに住む者達は満たされないのだ。母親として充分子供を育てているのに、まだ足りないと焦る陽子や、離れていても望む全てを持っているのに、淋しくて仕方ない詩乃のように。  もしも彼女達が、人間界では「不幸」とされる存在なら、尚更のことだった。いったいどれだけ、この世界の人間が求める「幸せ」は、大きなものなのだろう。 「こんなに凄くなっても、まだまだ頑張らないとダメなんだってさ。ここに住んでる人間達は、さ」 「……信じられない。何が楽しいんだ、それ」  日々新しい物が生まれ、世間の興味が移り変わるのを、異邦者の悪魔はいつも空ろに傍観していた。  未来の破綻には目を塞ぎ、互いの消耗も見て見ぬふりをし、努力と消費を人々は勧める。一方で、現状に疑問を持って声を上げる者達もいる。  眠りこけていれば幸せな翼の悪魔には、この世界における「正解」が全くわからない。考える意味もまず見出だせない。人間達の多くは他者の批判と美談をどちらも好み、自らの内の悪魔を見ない者がほとんどに思えた。まるでそれこそ、生きる術と言うかのように。 「何て言うか……賢しいよね、人間ってさ」  何が正しく、何が間違ったことか。それは元々、神にしかわからない事柄ではある。詩乃のように世の毒に穢れながらも、悪魔と一線を引ける人間は滅多にいない。「力」も信仰も関係なく、それは自らの心との闘い一つなのだ。  神の規範ではなく、人間同士でルールを作り、共存のために守り、変えていくのがこの世界に見えた。度々起こる人間達の過ちも、長い目で見れば必要なのだろう。
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