16人が本棚に入れています
本棚に追加
最近ツバメは、店卸しといった夜間バイトの方が割がいいと知って、夜に留守にすることが多くなった。代わりに朝は寝てしまうのだが、起きたら汐音も寝ていることが多い。今までは共に早起きして、汐音を高校に送り出していたが、二人して生活パターンを崩してしまった。
今日はまだ、高校に行くには早過ぎる時間で、このまま雨の中を共に帰宅するしかない。
「コンビニにはさすがに、花瓶、売ってないよねぇ。売ってても高いだろーな~」
一応駅の隣のコンビニに入ってみたが、商店街に比べて随分と割高なカップがあったのみだ。ツバメのポケットにある日当も心許なく、諦めてそのまま帰ることにする。
傘などまず持って出ないツバメを迎えに来た汐音は、いつ入手したのか、長靴まで履く武装ぶりだった。
「学生ズボンは濡れやすいの。オマエみたいに七分丈とかできないの、これ」
「でも、わざわざ水溜り歩いてないか、汐音は」
並んで歩く汐音のはしゃぎようは、嫌でも伝わってくる。普段は高校と食事探し以外引きこもりなので、ツバメと出かける時はいつも楽しそうに見えた。
「せっかく長靴なのに、フツーの道歩く方が意味わかんない!」
汐音の楽しげな声に、さっきから後ろを歩いている者――ホスト風の服装でスマホを手にする男が、一瞬顔を上げて彼らをじろりと見た。
彼らが歩く静かな住宅街にそぐわない男は、帰路が似ているのか、コンビニを出た辺りからずっとついてきている。妙にニヤニヤと笑いながら、ひたすらスマホの画面を見ている。
最初のコメントを投稿しよう!