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「ツバメのシャツも、はい、パス! 朝の内に洗っとくから」
店卸しだと汚れたでしょ! と、短い袖を掴んで引っ張る。
体が傾いた拍子に、タライの横にある全身鏡が見えた。汐音に後ろから右肩を掴まれて、金髪の頭をかくツバメが映っている。
半ば無理やりに服を引っぺがされたので、寝巻である灰色の作務衣に着替えて布団を敷くと、腕まくりしてタライに向かう汐音が嬉しそうに笑った。
「はーい、おやすみー。オレもこれ終わったらすぐに寝るよん」
和室に慣れているツバメは、いつも床の布団で寝るが、汐音はこの部屋唯一の大型家具、三人がけソファで寝ることが多い。床に布団を二つ敷くと、かつかつで狭いというのが主な言い分だった。
ここまでは特に、何の目立った変化もない。
いつもつけているチョーカーを外して、枕元の壁にかける小物入れの鋏に引っかける。そして枕に頭を埋め、タオルケットをひっかぶったところで、ツバメの記憶は闇に落ちるのだ。
それでどうして、次に起きたら、タライのあった場所に汐音が転がっているのだろう。ここからそうなるはずの部屋の風景を、瞼に焼き付けるように思い返しながら、彼は黙って黒い目を閉じた。
人外生物にとって、ヒトの命など、ごく軽いものに過ぎない。
気まぐれに弄び、結果が気に食わなければ、忘れればいい。特に人外生物同士なら、殺し合おうと咎めなどない。
更には彼は、「やり直せばいい」。「時」の名を持つ彼には、それができる。彼はそういう生き物なのだ。だから気軽に、唯一無二の相方も殺してしまうのだろう。
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