_破

7/10
前へ
/190ページ
次へ
 時を渡る雨の神。彼がこの人間世界に干渉するためには、かつて彼だった者に憑依するのが手っ取り早い。  山科燕雨は、棯時雨(うつぎしぐれ)が養子に行って得た名前だ。けれど雨の神たる今この彼は、山科燕雨にはなっていない。かつて「神隠し」にあった棯時雨が未来になる可能性のあった者、それが山科燕雨だ。  だから時雨は、ツバメに憑くことができる。金髪の青年ツバメと、銀髪の少年時雨、二人の違いはそれだけだろう。  ツバメの意識が眠りにつくと、時雨にとっては最も体を使い易い好機となる。  ツバメからすれば、悪い夢の時間としか言いようがない。でもそれは、時雨にとっても同じだった。  しばらくしてから、ぐしゃぐしゃとシャツを手洗いしている汐音が、何故か不意に話しかけてきた。 「あのさー、ツバメ。独り言だけど、こういうのって、思ったよりもずっと楽しいよねぇ」  視線はあくまで洗濯物に向けて、タライの後ろにしゃがむ汐音。幼げな笑顔は、安らかそのものと言って良かった。 「猫羽ちゃんも高校慣れてきてるし、もうオレが見てなくても大丈夫だと思う。ツバメもわかってるから、高校さぼっても怒らないんだよね?」  汐音とツバメが人間界で暮らしているのは、この四月からの二カ月だけだ。ツバメの妹が人間界の高校に通うことになったので、ツバメが汐音に見守りを頼んだのがそもそもの発端だった。 「オレもツバメも、そろそろ手を引いていいと思うんだよね。わざわざ無理して、人間界でお金を稼いで、人間のフリしてここに住まなくてもさ」
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加