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何だ、と。わかってみれば、答は簡単だった。
これは仕方がない。この状況は、時雨にしか解決できない。
何処にも寄る辺のない化け物。悪魔を殺す悪魔、「処刑人」の汐音。それは時雨の仕事と酷く似ている。
化け物などいないことになっている人間世界の秩序を守り、「神」や「妖」の名を冠する神的存在を、管理するのが時雨の役目だ。数多の時空を通り雨として渡り、現在ツバメの内に間借りするのも、この二人の異界の化生が監視対象だからだ。
「…………」
秩序を乱す化け物は狩る。平穏を望む悪魔など、最早悪魔ではない。それは悪魔たる事実に対する離反となる。
大義としては弱いが、それだけでも時雨は管理者権限の行使を許される。今ここで、汐音を討伐しても、文句を言う輩はまずいないだろう。
彼に背を向けて、自らの思いがけない感傷に戸惑うように窓を見続ける汐音は、いつになく隙だらけだった。
まるで時雨に、連れていってほしいと願うかのように。
神も悪魔も、隠れたる存在という点で、本質的には大きく変わらない。違いはただ、「神」の力を駆るものは大いなる神の一部に過ぎず、その名に課された御心には逆らえない。自らの意思よりも請け負った役割が優先される。
ツバメも時雨も、殊更に汐音を害そうとは思っていない。けれど時雨は、時雨である前に「管理者」に他ならない。あまつさえ、ヒトを救う「神」の一部であるのだから――
「……一緒に……来る?」
合理的であれば、その行動に彼の意思など全く必要はない。
引き攣れた微笑みを浮かべた時には、既に時雨の記憶は無くなっていた。
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