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まだ干されたばかりで渇いてないシャツは諦め、別に吊ってあった汐音の黒い上着を借りる。どうせ汐音は一日寝ているだろうし、今日は黒が着たい気分だった。
「あ……雨、やんでるな……」
そこでようやく、彼はほっとする。
これでもう、山科燕雨に戻ってもいい。ツバメに解けない問題の答を、代わりに出すことはない。
外に出て階段を下りると、雨雲もひいて、雲間から太陽が顔を出していた。
血の半分は吸血鬼という化け物であるツバメには、日差しはあまり有り難くない。それでもずぶ濡れよりはましかと、彼にしては珍しいことを思った。
いつも仕事をする駅前に足早に向かう。
途中の道で、道路に突き出た一房の谷空木が、いつにない黒衣のツバメを見送る。
帰りにまた、あの花を手折れば、雨も少しは遠慮してくれるだろうか。些細な花の有無くらいで、ヒトの運命などたやすく変わっていく。
雨降花という異名の木を、誰が教えてくれたのかは、今は考えないでおくことにした。
雨降花 了
関連:https://estar.jp/novels/25087418/viewer?page=35
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