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 何の変哲もない生活臭が漂う、家々がひしめく住宅街の、ある奥まった一角。  細長い煉瓦の花壇に囲まれて、鐘つき屋根に十字架が立つ古い建物……神の拠点とは全く思えない素朴で小さな教会に、その有翼の悪魔は出会った。  そこを訪れたのは、よく顔を合わせる野良猫がそちらに向かっていったからで、そうでもなければ、神にとっくに牙をむいた悪魔に、縁がある場所のわけはなかった。 「……へぇ。しょぼいわりには、中身は立派じゃん?」  傍目からは、黒いハイネックに学生服を羽織る美形の青少年。十代後半にも見えるかどうか怪しい童顔の悪魔の、不遜な呟き。  夕暮れに溶け込む青闇の黒い髪が、日本人らしからぬ鋭い灰色の目に硬くかかる。  その目に映る、十字架を掲げる古い建物……悪魔がそこに興味を持ったのは、ひとえに中から、脅威の気配を感じたからだった。 「いるもんだねぇ……人間にも、やばい奴が」  知り合いの都合で、この春から高校に通うことになった悪魔は、生まれも育ちも人間の範疇を大きく超えている。  悪魔自身、自らがここに在る経緯を、最早正確には覚えていない。二百に近いはずの年齢も、とっくに数えるのはやめていた。  自身を人間に見せるために、化けることを続けている体は、どの姿が本来かも忘れつつある。 「さて……どうしよっか、ね」
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