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 人間ではない悪魔が、高校通学のため、潜入できそうな人家があるか。この辺りには、それを探して来てみただけだった。  しかしこの上品そうな町には、思ったよりも人が少ない。可能な限り、不自然でない形で住み着かないと、長居にはリスクが高いことがわかる。 「こんな教会があるなら、余計――何かあれば、悪魔祓いをされちゃいそうだ」  悪魔や妖怪といった人外生物を、取り締まるものにも様々な派閥がある。  更には稀に、「力」などないはずの人間にも、本物のエクソシストがいる。この教会から感じるのは、そうした類の困った気配だった。  暇な悪魔は、高校に行けという、知り合いの頼みをきくのはやぶさかでない。  様々な経緯で、戸籍もこの町で二年前に入手している。後の問題は、単純に衣食住だ。  一つの町に、滅多に長居しない悪魔は、この人間界そのものがそう安易な場所ではないこと……人間にも人外生物にも厳しい世界だと、本能的に感じていた。  くすりと釣り上がる口元は、人間世界の倫理など忘れ、ありのままの気持ちを呟く。 「やられる前に……やっちゃおうかな?」  人間界に在る限り、異界の化生な悪魔の「力」は、大半を制限される。  それでも悪魔は、ここにいなければいけない。そのためなら工夫を凝らし、ヒト知れず障害を排除した方がいい。  陽さえ落ちれば、悪魔の時間だ。  自分の身を守るためのことなら、その「翼の悪魔」には何のためらいもない。
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