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立ち尽くす悪魔の横を通り抜け、人間の女が、息子らしき少年の肩を掴むようにかがんで視線を合わせていた。
「こら、夕烏。おかーさんのこと、置いてっちゃダメでしょー?」
本当にただの、何の特記すべき点もない人間の女。癖毛の短い茶髪はとても色が薄く、OLとは思えない露出度の服装で、化粧の濃さからも水商売の匂いがしていた。
特徴はただ、それだけだ。これからどうして、あの少年が生まれたのだろう。
そんな風に、まず思ってしまうくらい、少年から発する気配は悪魔の知覚を捉えて離さなかった。
母にたしなめられた幼い少年は、とても慣れたように、明るい笑顔で母親を見返している。
「なんだよー、どーせオレのこと、ここにおいてくくせにー! かーさんなんか、しごとがんばってくればいいんだ、オレのことなんてほっとけばいいんだー!」
「あーもー。夕烏ってば、いじわるなんだからー。そんなこと言ったら、おかーさん、さみしいでしょー?」
「しらなーい! オレはここで、よいこでおるすばんだもんー!」
きっとこれは、この母子なりの、日常会話で激励なのだろう。
黒髪の少年は、わしゃわしゃと頭を撫でられて、最後にぎゅっと母に抱き締められている。
まるでそれを見計らったように、教会の中から出てきた人影があった。
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