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 黒髪の少年の出現に、あまりに驚いてしまったので、夜討ちを企む悪魔は存在を隠すことを全く忘れていた。  目前に出てきた、教会にいた者。それこそ悪魔が、「やばい奴」と感じた張本人で、排除したい対象……人外生物の悪魔を、おいそれと見られて良い相手ではない。  しかしその事に気付く前に、人影は悪魔の存在を見つけてしまった。  母から離れて、人影の方に飛んでいった少年を抱き留めながら、それは不審な顔を悪魔に向ける。 「……? 陽子さん……そのヒト、知り合い?」 「――え? って、あ、この学生さんのことー?」  ただの人間らしき母の方は、悪魔にやっと気が付いた体で、知らないよー。と、不思議そうに首を傾げる。  教会から出てきた人影――細い眼鏡の下の目を、怪訝に歪めた同年代の女性は、長い一つ括りの茶髪を揺らして黒髪の少年を抱き上げた。 「……それじゃ、いつも通り、ユウくんは預かるから。陽子さん――お仕事気を付けてね」 「はーい。いつも本当ありがとねー、詩乃ちゃん」  悪魔を警戒し、幼い少年を自らの元に確保しながら、詩乃というらしい眼鏡の女性はすぐに平静に戻っている。  悪魔の存在の違和感に気付きながら、それだけで済ませているのは、彼女が呑気であるだけなのか……もしくは、悪魔を脅威にみなさないほど大物であるのか、判断に悩む。
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