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母の女が行ってしまうと、教会から出てきた女性は改めて、少年を抱っこしながら悪魔をじっと見据えてきた。
「……貴方は、どちらさまでしょうか? この教会に、何か御用が?」
眼鏡の奥の冷静な瞳は、おそらく悪魔の殺意に気付きながら、普通の対応を試みてくる。
人間程度にそんな余裕を見せられるのは、聖なる場の門前という不利もおそらく関係している。真面目そうな顔の女性を前に、本来圧倒的に強いはずの悪魔は、あえて意地悪く笑った。
「用なんてないけど。それとも、あるように見える?」
女性の首元では、抱き上げられた黒髪の少年が、あからさまに警戒する目つきで悪魔を見やっている。
女性が沈黙したこともあり、少年のまっすぐな表情に、悪魔は不意に溜息をついてしまった。
「……あるとしたら、そうだね。そこのソイツを……渡してほしいかもね?」
すっと口をついて出た、明らかに怪しい者の台詞。
女性が瞬時に険しい顔をし、しがみつく少年を強く抱き返す。
悪魔自身、何故そんなことを言ったか自覚できなかった。排除すべき相手は女性の方だろう。
幼いながら、必死の虚勢で悪魔を見返す、黒髪の少年の灰色の目。
日本人には珍しいその色合いは、どこかで見かけた、見慣れた組み合わせで……。
そこにやっと思い至った時に、女性の方から、悪魔のここまでの感慨を言葉にしたのだった。
「貴方、どうして……ユウくんに、よく似ているの?」
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