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教会に備え付けられた、夕刻を告げる鐘の音が、女性の声と同時に辺りに響き渡った。
何処か物悲しい、安っぽい音色。この国の濁った黄昏の空には、よく似合っている。
「…………」
守るように少年を抱きしめながら、悪魔をまっすぐに見る勇敢な女性に、悪魔はふと、どうでもいいことが気になってきた。
女性が出てきた時から、教会のドアはずっと開いたままだ。まだ肌寒いこの季節、それでは建物の内部が冷えてしまうだろう。明かりもつけられておらず、中には他に誰もいないのかと、そんなことを不思議に思った。
普通なら牧師か神父がいるはずだが、この女性より強い気配は何処にも感じられない。
「とりあえず……悪いもんが入る前に、帰ったら?」
両腕を組んで、無表情に言った悪魔に、女性は首を傾げながらも、金彩を宿す褐色の目を向け続ける。
「悪いもの……それは、貴方みたいな?」
尋ねる女性の、真意はよくわからなかった。悪魔を警戒しながら、自らの縄張り――その聖域に逃げない女性は、どうして悪魔と話を続けるのだろう。
悪魔は既に、少し面倒くさくなってきていた。
色々と気になることは、目前に展開されているが……そんなことを追及するのは、悪魔の目的ではなかった。
ここで女性を殺すために、牙をむくのかどうか。
教会の外で、陽が落ちるこの時なら、それはそこまで困難ではない。
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