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 物騒なことを考えながらも、今日はもう、億劫さの方が勝ってしまった。女性には何も答えずに、悪魔はくるりと、教会に背中を向ける。  あまり遅くなると、今泊まっている場所の主も文句を言う。そうした諸々が、ただ面倒なだけだった。  エクソシストと言っても良さそうな、妙な気配を感じるこの女性と、有り得ないはずの少年の存在。  そのどちらも、今日は保留にすることにした。暇な悪魔には、どうせ機会は腐るほどあるのだから。 「――待って。もしかして、貴方……」  だから呼び止められようが、排除対象に返事をする気はなかった。  もしもそれが、その悪魔の核心をつく、銀の弾丸の一言でなければ。 「貴方、もしかして……わたしの天使を、知っているの?」  ……一瞬、何を言われたのか、それすらもわからなかった。  珍しい翼の悪魔は、人間にも、人外生物にも滅多にない、奇妙な勘の良さを持っている。  意識して扱えるものではないが、理解力も洞察力も、人外生物にしては鋭い方だと自覚している。  その悪魔が今日は全く、そこにいる人間の事をわからないでいる。  完全に初対面で、教会などという、悪魔とは無縁の場所にいる聖なる人間。その目が何を見て、何を言おうとしているのか、どうしてなのか露ほどもわからなかった。
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