16人が本棚に入れています
本棚に追加
しかしそれは、あくまで……「悪魔」だけの混乱だったらしい。
「――うん。知ってる、よ」
振り返った自らが、気軽な声色で発した言葉。
それに驚いたのは、「悪魔」だけではなかった。
「え……貴方――」
人間の女性が目を丸くして、突然人懐っこく笑った相手を凝視する。
その暗がりにいたのは、今までの黒髪の高校生ではなかった。
「だってオレは――そのために今まで、ここにいたんだ」
驚く女性に答える、青銀の短い髪の青年。人間には有り得ない色素を持つ仮初めの生き物。
その蒼い目に映るのは、答えた相手の女性ではなく、女性が抱える黒髪の幼い少年だった。
「……久しぶり、だね……『オレ』……」
今はまだ、「悪魔」には理解できない、ある運命の始まりの予兆。
すっかり長寿の毒に穢れて、暗闇に身を置く「悪魔」に、それは破滅の足音でしかない。
ただ一人、全てを悟った者の声を覆うように、今も黄昏の鐘が鳴り響いていた。
最初のコメントを投稿しよう!