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 しかしそれは、あくまで……「悪魔」だけの混乱だったらしい。 「――うん。知ってる、よ」  振り返った自らが、気軽な声色で発した言葉。  それに驚いたのは、「悪魔」だけではなかった。 「え……貴方――」  人間の女性が目を丸くして、突然人懐っこく笑った相手を凝視する。  その暗がりにいたのは、今までの黒髪の高校生ではなかった。 「だってオレは――そのために今まで、ここにいたんだ」  驚く女性に答える、青銀の短い髪の青年。人間には有り得ない色素を持つ仮初めの生き物。  その蒼い目に映るのは、答えた相手の女性ではなく、女性が抱える黒髪の幼い少年だった。 「……久しぶり、だね……『オレ』……」  今はまだ、「悪魔」には理解できない、ある運命の始まりの予兆。  すっかり長寿の毒に穢れて、暗闇に身を置く「悪魔」に、それは破滅の足音でしかない。  ただ一人、全てを悟った者の声を覆うように、今も黄昏の鐘が鳴り響いていた。
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