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 しかし男は、まがりなりにも医者をしており、悪魔の体も何度も診たことがある。  それが今更、伴侶と同じ寝顔程度でおかしな気になるものかと、気楽な悪魔は首を傾げる。  たまにきらりと、金色に光る男の黒い目は、「神眼」と呼ばれる人外の観察能力を備えている。  それに何が視えているかは知らないが、その眼の通り神の類の男は、灰皿に煙草を押し付けながらため息をついた。 「おまえな。やっぱり何も、気付いてないな」 「?」 「まあいい。とりあえず昨日から特に、おまえは別人だ。意識して以前に戻れ、以上だ」  人外生物をよく診る医者の男。その言葉には当然意味があるので、聞き流すわけにもいかなかった。 「よくわかんないけど……戻らなかったらそれ、どうなるのさ」 「これから同居人ができるんだろう。十中八九、ソイツが変な気を起こす」 「ないない。アイツ女ったらしだけど、女しか好きじゃないよ」  そこで男は、ますます苦い顔をして、にやにや笑う悪魔を神妙に見た。 「その顔ができれば、まあ大丈夫だろうがな。前から言ってるが、おまえは男だが、体は女型だ。それを自覚しろ」  あー、と。あくどい笑みのまま、悪魔はぽんと手を打つ。 「あんどろげんフオウ症……だっけ? 人間で言うと」  医者曰く、遺伝子という生物上の型は男性でも、外見はほぼ女性になる場合があるという。確かに悪魔には声変わりもなく、いつまでも雰囲気が子供っぽい。  この悪魔のように、その体型でも自身を男と知っていた状態は珍しいらしい。男として望まれた悪魔の出自故のことだが、それを言われてから、これ以上体が女性寄りにならないように、何度か男の診察を受けていた悪魔だった。
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