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 昨日の夕方、あの教会の女性に会ってから、悪魔はあっさり潜伏生活を諦めていた。  余計な手間は増えるものの、堂々と戸籍を使い、人間として暮らす方が安全だろう。そのために、悪魔に高校に通うよう頼んだ知り合いに、生活を助けてくれと連絡したばかりだった。  その結果、どこかで部屋を借りて、二人暮らしをすることになった。  大分前には、二年ほど共に生活したこともあり、わりとすんなり話は決まっていた。  しかし当時とは状況が違うと、男は懸念しているらしい。 「どうせずっと化けてるんだ。男に化けることもできるだろう?」 「知らないし。オレにはこの体が当たり前だから、知らないもんは化けられないし」  太陽光を嫌う化け物、吸血鬼である悪魔。日中に外に出られるのは、光との付き合い方を調整できるレベルに達しているからだ。  そのため、光の具合で相手の目に届く映像を操作する――身長を多少変えたり、髪や目の色を変えることくらいは簡単にできる。省エネ型であるコウモリに化けること以外、吸血鬼の変身とは、自己の密度と光への干渉能力を基盤とする。  それは実際、悪魔の本体は何も変わっていない。化けるのをやめれば、一からまた調整し直さなければならない。男と女の違いといった人体の構造の研究は、滅多に他者に肌を見せない悪魔には、全く興味がないものだった。 「大体、オレに万一何かあったところで、アンタがどう困るっていうのさ?」 「…………」  そこで男は、とても難しい顔付きで黙り込んでしまった。  まず、今の悪魔の返答自体が、男の予想を超えたものだったらしい。
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