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 悪魔自身、頭をかきながらふっと、あれ? と思った。  その発想は、全くもって、この翼の悪魔らしくない。  悪魔は元々、精神年齢がいつまでも子供という自覚があり、また、そうありたい望みを持っていたのだから。 「……うん。確かにオレ、何かおかしいね」  頷く悪魔に、ようやく気付いたかと言わんばかりに、黒い神眼の男は肘掛に頬杖をついて悪魔を見つめた。 「あまり本来のおまえから離れ過ぎるな。今後本気で、戻らなくなるぞ」 「……まじで。オレまだ、何か……違う奴いたの?」  無表情に頷く男に、悪魔はようやく、自分が昨日までの「悪魔」でないことに思い至る。  男のもっと後ろの方には、壁掛けの大きな鏡がある。そこに映る悪魔の姿は、「悪魔」である黒髪で灰色の目の学生ではなかった。 「今のおまえは、本来のおまえに最も近く、そして真逆だ」  化ける行程を変えたつもりは、全くといってなかった。しかし鏡に映るのは、悪魔の変質を物語るように、青みのある銀髪で蒼い目で、更にはシャツ一枚だけの華奢な姿……。  裾から生える白い両足は、すらりと形が良く、高校生より伸びた背丈のわりに、細さと体のくびれが増した体。左右非対称に髪も少しだけ伸びており、総合するとそれは完全に、しなやかで女性的な容姿だった。 「……うわー。これは、うん、やばい、ね……」  この翼の悪魔が自らとして投影する化けの姿は、悪魔の意識を反映すると言っていい。  元々悪魔は、幾人もの「自分」を持っていた。それらは全て、人間の多重人格と似て、大元の体の主を守るためのものといって差支えない。  しかし本来の体の主は、ある時を境に、ほとんど顕在化しなくなってしまったのだ。
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